199X年・・・。
無法者の荒野を統治するのは、絶大なる恐怖のみ・・・っ!
なワケが無かったっ!
時は世紀末をとっくに過ぎて新世紀21世紀!
世の中はとっても平和な法治国家で、警察もちゃんと活躍してます。
安定した治安の中で、今日も仕事に精を出す人々の声が響く。
そんな中・・・
「いらっしゃいませ〜♪ようこそナックル・ドナルゾへ!チーズバーガーセットでお会計350円になります♪」
ここは全国一のハンバーガーチェーン、「ナックル・ドナルゾハンバーガー」原宿店。
バイトの女の子の元気な声が聞こえる。
「ありがとうございました〜♪次の方・・・きゃあぁーーーっっ」
バイトの少女は目の前に飛び込んできた光景に悲鳴を上げた。
まず、ドライブスルーに、車ではなく・・・
馬が入って来たのだ。黒く、巨大な馬が。
さらには、それに跨がっていた男が、鎧兜で武装した巨漢ならばその威圧感たるや半端ではなかった。
「ビッグナックセットだ。あとダブルハンバーガーを2つ」
(うっ、馬!?なんで?どーして?)
唖然として動けない少女に、男は厳しく言い咎めた。
「キサマ!このラオウを待たす気か!?」
「あっ!、は、ハイっ!只今!」
この男、名を霞羅王(かすみラオウ)と言う。
ケンシロウの義兄にして北斗の長兄ラオウ。
暴虐の世紀末に覇王となるはずだったこの漢は、太平の世にあっても全くズレていなかった。
「おはよ〜う、みんなぁ♪」
「あっ!リン先輩、おはようございます。」
「おっはよーっ!リンさぁんっ!」
土曜の朝、今日は新曲のレッスンに集まっていたPCA21のメンバーたちの前に、ホールのドアを開けて彼女たちの先輩女優が顔を見せた。
ドア付近にいた中学2年の夏木(なつき)りんと夢原(ゆめはら)のぞみが元気良く対応したことによって、メンバーの注目が彼女に集まる。
冨永鈴(とみながりん)。
PCA21と同じく芸能会社・五車プロダクションに所属している女優で、高校3年生。
私立・愛治学園の理事長の孫娘でもある。幼い頃から天才子役として芸能界を渡り、多くのドラマや舞台をこなし、まさにPCA21のメンバーたちにとっては、憧れのお姉さまだった。
茶がかった綺麗な黒のショートヘア。パッチリとした眼に独特の愛嬌のある唇。誰もがため息をつく美少女だ。
「ゆりちゃん、マミヤ先生は?」
「あ、マミヤ先生なら・・」
眼鏡に黒髪のロングヘアを持つ美少女、月影ゆりがリンに答えようとしたタイミングだった。
ぱちぃ〜んっっ!
ぺんっ! ぺんっ! ペーーーンっっ!
「ぁああぁあ〜〜んッッ!いたあぁいよおぉ〜〜っ」
「まったく・・・アンタってコはッ!悪いコなんだからっ」
「えぇーーんッ!エン、エン・・オシリ・・いちゃあぁ・・ゴメっ、ゴメンなさ・・ゴメンなしゃあぁ〜いっっ」
ホールの録音スタジオの部屋からそんな泣き声と叱責、そしてお尻を叩く音が聞こえてきた。
多少防音が効いてるにも関わらずこの泣き声。
メンバーはみな冷や汗を流し、あるものは耳を塞いだり、お尻を擦ったりしてる。
「・・・アソコね」
「・・・ハイ」
微笑んで聞くリン、ゆりはメンバーの痴態にやや顔を赤らめながらも、短く答える。
「誰?」
「・・・響です」
「あ〜あ、ひーちゃん、今度はどんなおイタしたの?」
「あ!あ!アタシ知ってるよぉー、響ったらねぇ、毎日毎日仕事以外は遊んでばっかでぇ、宿題全然してなくって、英語と国語と数学の先生からマミヤ先生まで文句が来たんだってさぁ。ダメだよねぇ〜」
「え、えりか!響ちゃんが可哀想ですよ!」
「そうですぅーっえりかだって、前におんなじ理由で叱られたクセに何言ってるですかーっ」
ウェーブのかかった蒼い髪の少女、来海えりかの心無い言い方に、左右でまとめた赤髪の少女、花咲つぼみと妖精コフレが非難の声を上げる。
「まったく響には困ったもんだな」
「そう言えば、のぞみやラブなんかも以前全く同じ理由で叱られてたな・・コレはPCAのお家芸か?」
「あーココとナッツの意地悪!」
「女の子のそーゆーコト覚えなくっていいんだから!」
茶髪のツインテールの少女と、濃い桃色のセミロングヘアの少女が、テーブルでお茶を飲んでいた美形の長身男性に膨れた。
片方は黒髪、もう片方は金髪の美男。
ココとナッツと言う。
人間の姿をしているが、彼らも妖精であり、PCA21の妖精のリーダーをしている。
ココは小々田(ここだ)コージという教師になって、私立・愛治学園の教師として、ナッツは今話題のアクセサリー店、「ナッツハウス」のオーナーとして、プリキュアを支えているのだ。
「あら、リンちゃん」
「おはようマミヤさん」
5分ほど経って、レコード室から泣きじゃくった北条響を抱っこした藤田麻美弥が現れた。
「ゴメンねぇ、ちょっと用があったもんだから・・・ウフv」
リンは響に近づくと、そのほっぺをクニュっとつついて言った。
「ひーちゃん、まぁたおイタしたの?懲りないコね♪」
「な・・ヒクッ・・なんにもっ・・ぐすっぐしゅっ・・してな・・もぉ・・・えっく、えぇっく」
「なんにもしてないから、怒ったんでしょ?宿題1ヶ月も溜め込むなんて・・・」
「あっちゃあ、そんな悪いコだったんだ?でももうイイコになったもんねぇ〜、ほら、オシリペンペン終わったからもう泣かないの。イタイのイタイの飛んでけ〜v」
泣きべその響の髪を優しく撫で、お尻を2、3回撫でておまじないをかける。
すっかり幼児をあやす場面である。その光景に周囲から微笑ましいからかい声が飛んだ。
「新しいコンサート会場の建設現場の見学?」
リンが持ってきた話、お茶を飲みながらマミヤは聞き返した。
「そうなの!ウチの下請けの会社で施工するんだけど・・舞台公演にもコンサートステージにも使えるらしいから、皆にも見てもらおうと思って、現場監督はブンビーカンパニーだし」
「あっ!知ってる、ブンビーさんの会社だ!」
「あのオジサンホントに会社作ったんだ。現場監督なんて結構ヤルじゃん!」
夢原のぞみや夏木りんといった少女達から声が上がる。
知らない奏や響、エレンなんかは?マークが浮かんでいる。
「ねーねー!アタシ行きたいっ!」
「あっ!のぞみちゃん行くならアタシも行くぅ〜♪」
「あ、アタシも連れてってくださーい!」
途端にあちこちから遠足のような呑気な声が上がる。
マミヤはハァ・・と沈痛な顏をして額に手を当てた。連れていってあげたいのだが、今日は高1の美墨なぎさと中3の水無月かれんのドラマの撮影があるため、そちらに付いていかねばならない。それに・・
マミヤはチラリと、自分の胸を見た。
お仕置きされた響がまだ泣いてグズって甘えてる。
普段母が居ないせいか、響は泣いた時、極端に幼児化してマミヤに甘えてくる。当分は離れそうにない。
どうしようかと悩んでいた時、ホールのドアが開いた。
「マミヤさん、撮影のスタッフ準備OKらしいです!なぎさとかれんスタンバイさせて下さい!」
「レイナ!」
マミヤは立ち上がり、小躍りしてドアの向こうにいる女性に走り寄った。
「うわぁ〜〜っ!スッゴぉイっ!おっきぃーーっ!」
「ホントですねぇーーっ」
空に向かって聳(そび)え立つかのようなクレーン車や、土砂を山と積んだダンプカーを見て、えりかと1年生の春日野うららが声をあげた。
長い金髪を左右でツインテールにした小柄で愛らしい少女がうららである。
その後ろには、いつものように蒼がかった黒髪のストレートヘアのエレンや、のぞみ、そして、高1でなぎさと同期の雪城ほのかがいた。
そして、彼女らの保護者に遣わされたのは・・・
「みんな、現場だからヘルメットは必ず着用よいいわね?」
『はぁ〜〜いっ!』
「ほのか、アナタ一番歳上だししっかりしてるから・・年下の子達、お願いね」
「わかってます。大丈夫ですよ。レイナ先生」
ほのかと呼ばれた黒髪の少女はレイナと言う女性にしっかりと答えた。
松風麗奈(まつかぜレイナ)
マミヤの後輩で、PCA21のスタイリスト兼私立・愛治学園の体育教師。
数年前、愛治学園に新卒者として迎えられ、先輩教諭として色々恩を受ける。マミヤを慕い、次第に関係が親密になっていった。
その後、マミヤよりプリキュアの存在と悪の組織シヨッカー、そして妖精達の存在を知り、今ではマミヤ同様、教師と芸能スタイリストを掛け持ちしながらプリキュアを支えているのだ。
「おーーいブンビーさぁん!」
「ん?」
ヘルメットにスーツ姿の中年男性。
現場男共のむさ苦しい環境の中、場違いに明るい、可愛い声が上がったため、声の方に振り返った。
「おおーー!のぞみくぅん!」
破顔して手を振るのぞみたち、プリキュアの方に駆け寄るスーツの男性。
「キャーvやっぱりオジサンだぁ〜♪」
「お久しぶりですぅ〜♪」
「ホントホント!元気そうで良かったですぅ〜」
「うららくんも、えりかちゃんも、ほのかさんも!ああ、レイナさんまで、お元気そうで」
「ビックリしましたよ文尾さん、ホントに会社立ち上げられて、しかも1年足らずでこんな大きな工事の現場を任されるなんて・・」
「いやいや、それほどでも・・」
ブンビーと呼ばれた男性はひたすら恐縮した。
金髪のオールバック、細身だが、逞しい身体つきのこの男、名を文尾渉(ぶんびわたる)と言う。
元々はプリキュアに敵対するワルサーシヨッカーの管理職だったのだが、社長サラマンダー藤原や、直属の上司、カワリーノの過激かつ奇抜な発想に付いていけず、また敵対していたプリキュアの友情を間近でみて改心。
脱サラして、一念発起。自分で会社「何でも屋・ブンビーカンパニー」を設立。
建築、建設にイベント開設。ありとあらゆるジャンルの仕事をがむしゃらに担い、僅か1年足らずで、ビジネス界隈の新興勢力となった。
そんな努力家の彼だったが、きっかけを作ってくれたプリキュアにはとても感謝しているのだ。
「今日は見学ですかな?良かったら後程お茶でも・・」
「どうぞ、お気になさらず、私達も勝手に来たダケですし、見学も自由にさせて頂きます」
「アハハ、どうぞどうぞ!正し・・・その娘は・・・新しいメンバーの娘かな?」
ブンビーがエレンを見て言う。
「ええ、最近加わりました。勿論この子もプリキュアです。エレン、ご挨拶は?」
「あ、こ、こんにちは・・」
やや緊張した面持ちの彼女を見てまた笑ったブンビーはちょっと真面目な顏になると話し始めた。
「では、一つだけ、ご覧のとおりココは工事現場。危険な所も沢山あります。足場や工事中の建物には入らない。守って頂けますかな?」
『ハイ!』
威勢のいい返事に、ブンビーもすっかり安心した。
「では、完成の姿を期待しながら、存分に見物なさってください!」
満面の笑みでそう言った。
「フゥ・・今月ピンチとは言え、バイト掛け持ちはしんどいぜ・・・」
片手に誘導棒をもち、ヘルメットを着用した彼、難波伐斗(なんばばっと)は欠伸混じりに呟いた。
学費を両親に頼らず自分で工面している彼。
日々の生活費を稼ぐにも何かと大変なのだ。
「ふぁっ・・ととっ、眠くなってる場合じゃねえやな。仕事仕事・・・」
「おぉ〜〜いバットさぁーん!」
元気の良い聞き覚えのある声が聞こえた。
「ン?あの声は・・」
振り返ると、見覚えのある女性と少女。
「おぉー。レイナさんにえりかちゃん、それにエレンちゃんやのぞみちゃんにうららちゃん・・・ホノちゃんも。みんか今日どうしたの?」
「今日は新しいこのコンサート会場の現場見学にきたんです。バットさんは?」
「ああ、まぁな、バイトだバイト。俺の場合、コッチでの生活費やいろんなモン稼がなきゃならないからな」
「へ〜、大変ですね」
「まぁ、慣れると気楽だけどな・・ドジやらかすと怒られるケド」
そんな会話をほのかやうららとしていた時だった。
「コラァっ!キミィ」
「新入りのキミ!何やってるのかね!」
「あ、ブンビーさんの声」
「なんか怒ってるみたい」
突如上がったブンビーの怒声に、うららとエレンが気づいた。
「ハハハ、誰かやらかしたか?」
レイナも含め、全員が声の方を振り返る。戦慄が走った。
「と、取り敢えず馬から降りなさい!」
ブンビーの眼前には、黒い巨大な馬に跨がった、水牛のような角と物騒なトゲをあしらった兜をかぶり、重厚そうな鎧にマントを纏い、筋肉隆々とした鋼の肉体を持つ大男が佇んでいた。
『ええーーー!!??』
全員がその光景に絶叫した。どう見てもただの作業員ではない。
「貴様、このラオウにうぬらと同じ地面に立てと言うか?」
(やらかすどころの騒ぎじゃねぇぇーー!!)
心の中で叫ぶバット。しかし、この男どこかで見覚えがあった。アレは・・・
「・・・ラオウ」
「え!?知り合いなんですかレイナ先生」
ビックリした様子のほのかに「え、ええわりと古い付き合い」と答えるレイナ。
「まさかココで働いてたなんて・・」
「ハッ!そうだ、アイツ・・ケンの兄貴!」
「あーそうだ!」
「うん、思い出したぁ」
バットが気づいた時、えりかとのぞみが声を上げた。
回想
「ねぇねぇ、ケンシロウ先生のお兄さんてどんな人」
数日前のレッスン後、談話室にて美墨なぎさが聞いた言葉。
「長兄はラオウ。この世の全てを拳にて手に入れると豪語する男だ」
回想終わり。
(ハイ、要注意人物決定ー!この世の全てを手に入れるってRPGのラスボスか!?)
「いいか?嬢ちゃんたち、アイツとは何があっても関わっちゃダメだ」
嫌な予感がする。瞬時にそう判断したバットはプリキュアの嬢ちゃんたちにそう言った。
当のラオウは馬を降り、すでに自分に食って掛かる人物と相対していた。
「ふっ、このラオウに意見するとは大した奴よ」
「何だと!キミねぇ、私はここの現場監督なんですよ!?」
「ふっ、笑止!我は拳王なるぞ!」
「け、ケンオウ?くっ、ケンオウだか剣道だか知らないが、大体何だねそのカッコウは!作業着は着ない変なモンはかぶる!渡してあるメットはどうしたメットは!?」
「フッ、しかと見よ」
あまりにも堂々とした物言い何かと思ってブンビー以下プリキュアのメンバーも彼の兜に注目した。すると・・・
まずほのかとうららが気づいた。
「あっ!ほのかさん!あの兜っ」
「あ・・安全第一って書いてある・・・」
「あの兜ヘルメットをカスタムしちゃってるーーっ!」
2人の言葉にバットが激しく突っ込む。
「なんなのあの人、もう見てらんない!」
「あ、エレン!」
「バカ!嬢ちゃん近づくなっ」
レイナとバットが制止するのも聞かず、エレンがラオウとブンビーの方に走っていき、そして2人の間に割って入った。
「ちょっとオジサン!あんまりじゃないの?」
「え、エレンくん!?」
「ぬぅ?」
「さっきから聞いてれば勝手なコトばかり言って・・・みんな困ってるじゃない!」
「ほほう、小娘、うぬもこの拳王の言に異を唱えるか?」
「ケンシロウ先生のお兄さんなんでしょ?だったらちゃんとしてよ!」
「ほほう、うぬはケンシロウの知り合いか?」
「生徒です」
「フンッ!ならばとくと見るが良い。世紀末の覇王が所業を!」
ラオウはその場から大股で歩き出し、朝礼台の上に登り、高らかにこう宣言した。
「ものども聞けい!今日よりこのラオウが現場の長となる!!」
『いきなり何言っちゃってんのぉーー!?』
バット、ブンビー、ほのかなどが見事にハモる。
いや、心の中ではこの場にいる作業員全てが同じ心境だったろう。みな手を止めてポカンとした表情。
続いてラオウはその舞台の上に何処からかや髑髏(どくろ)獣の骨の装飾が怖い巨大な椅子を持って来て、設置、どっかりと腰掛けた。
「そして今度は世紀末的な椅子に座ったあぁーーっ!・・・いつの間に用意したんだよあんなの・・」
「ラオウはアレで結構器用だから・・・作ったのかも知れないわね・・」
「手作り・・・マジか?」
「どーするのブンビーさん」
「そうそう、せっかくのお仕事とられちゃうよ?」
「頑張ったのに・・」
「だ、大丈夫!これでも責任者ですよ!彼の好きにはさせないさ!まぁ見ておきたまえ」
バットとレイナの溜め息を後ろに心配するのぞみと、えりか、うらら。そんな彼女たちに自分を奮い起たせ、元気よくブンビーは答えた。
今度は自分が大股でラオウの所に歩いていき、こう言った。
「キミ!もう帰っていいよ」
「うむ、終業か?ならば日当を差し出せい」
「あるわけないでしょーが!おバカ!クビだよキミ、ク〜ビ!」
「何ィイ!?」
ココで初めてラオウは驚愕に顔を歪め、固まった。
そして、胸をそびやかすブンビーを見てワナワナと震え出した。
「キサマ!男の血と汗を・・汚すと言うかあっ!?」
拳を握って叫ぶラオウだが、バット初め、プリキュアメンバーもその他の作業員も、「イヤ、アンタは何もしてないだろ。」と心の中で突っ込んだことは言うまでもない。
しかし、ラオウは自分勝手な言動をさらに続け。
遂にその力で事件を引き起こしたのだった。
「理不尽なるその暴挙、死をもって償えい!!」
ラオウの身体にみるみる闘気が集約していき、右手が光輝いた。
「ま、まさか・・あっ、アブねえ!!みんな離れろ!!」
いち早く危険を悟ったバットがのぞみ達を庇って飛び伏せた。そして・・・
「北斗剛掌波(ほくとごうしょうは)!!」
「やっぱりキターー!北斗神拳ーー!!(゜ロ゜;」
ラオウの右掌から放たれた黄金の闘気は、大気を焦がしながら目の前のブンビーを突き抜け、背後の施工予定地だった地場に激突した。
説明しよう!
北斗剛掌波とは!
北斗神拳の闘気の奥義である。集約した闘気を衝撃波として敵に叩きつけ外部ごと破壊するという、強力無比なる奥義である!
ドッガアアァァンッッ!!
まさに轟音。
土煙が舞い上がり、煙の中からはポッカリと巨大な大穴が姿を現した。
最早威厳も何もなく、背後の大穴を見て、ガタガタと震えるブンビー。
ブンビーだけではない。そこにいた作業員全員。バットやプリキュアのメンバーすらそのあまりの豪腕に言葉が出なかった。
「次は狙う」
「ひ・・は・・はひっ」
「うぬらの拾ったその命、今日からこのラオウの為に使えい!」
既に、異論を挟む者などなかった。
ただ全員
『ははーーーーっ』
と大地に頭を垂れ、ここに新世紀、21世紀という太平の時代に、恐怖による支配が完成した。
「お、おい・・この穴」
「ず、図面どおり!?まさか狙って・・・ダンプとパワーショベルで1日かかる工事だったのに!?」
さらに偶然の産物も加わり、ラオウの存在は絶対的なものとなった。
そんな現場を、笑いながら見ている1人の作業員がいた。いや、作業員に扮した怪しき人物。
「ウフフvちょうど混乱してるジャーン、イイカンジ♪」
ヘルメットの下は髪の長い女性だった。赤髪の妖艶な女性。
この女性、名を雨蘭(うらん)ポイズニーと言う。
プリキュアに敵対する悪の組織、「ワルサーシヨッカー」の一員である。
「嗚呼、素敵なサラマンダー様。アタシ、貴方のためにガンバるわん♪」
そう言いながら、胸元から社長、サラマンダー・藤原の写真を取りだし、軽くキスした。
彼女の頭に、今朝、社長室に呼ばれた記憶が蘇る。
「やぁ、よく来てくれたね、ポイズニーくん」
「社長、お呼びですか?」
「夕凪町5丁目に、プリキュアの新しいコンサート会場が建つ予定でね。そこの現場に急行し、工事を散々に掻き回して意地悪して邪魔して欲しいんだよ。出来るかな?」
椅子に腰掛けた赤髪の男性は端正な顔をにやつかせながら彼女に話した。その彼に一礼しながら、ポイズニーは「お任せを!」と言った。
「因みに・・もし失敗しちゃったら、ピーサードくんのようにキツ〜イお仕置きがあるからね?期待してるよ」
その言葉にポイズニーはもう一度姿勢を正し、社長室を後にした。
「さて?ピーサードくんは今頃頑張ってるかな?なぁオリヴィエ?」
「・・・僕に聞かないでよ・・」
部屋の奥で本を読んでいたオリヴィエと呼ばれた青髪の少年。
溜め息をつきながら呟いた。
その頃の失敗したお仕置き中のピーサードくん。
「よろしくー、パチンコワルサー本日開店でーす。どーぞー」
道行く人々に、吉祥寺駅前でティッシュ配りの真っ最中だった。
傍らの段ボールには、「ピーサードくんへv罰ゲーム。広告ティッシュ300束。配り終わるまで帰ってきちゃダメよん♪」とメッセージがあった。
「ハァ・・腹減った。とっとと配り終えて牙屋の牛丼でも食べて帰ろ」
ずっと機を伺っていた雨蘭ポイズニー。
今が好機!行動を開始すると、エレンの方に走り寄った。
「スミマセ〜ン、PCA21の、黒川エレンさんですよね?」
「あ、ハイ、そうですけど・・」
突然作業員と思わしき女性から声をかけられ、少々戸惑うエレン。しかし、次に女性が発した言葉は、彼女を興奮させた。
「実は・・アナタのファンがたくさーん集まってるんですよ。」
「え?ワタシのファン!?」
驚いた。
自分はまだプリキュア、PCA21のメンバーになってまだ日も浅い。
それなのにもう自分のファンが出来たのか?興奮と同時に喜びが沸き上がった。
「で、ですね。アチラの小ホールの方に、今日あなた方が来てるのを聞き付けて、エレンさんのファンが詰めかけてるんで・・顔だけでも見せて貰えないでしょうか?」
「えぇ!?で・・でもぉ・・・」
迷った。確かにファンが来てくれたのは嬉しい。
しかしブンビーからは建設途中の建物には危険だから絶対に入らないようにと言われている。
(どうしよう・・・約束破っちゃマズイよね。でもぉ・・)
「ほんの少し、顔出ししてくれるだけでもいいですから・・ちょっとダケ!」
そうお願いされると、「ちょっとだけなら、まぁ、いっか」という考えがエレンの中に芽生え、ついには
「わかりました。じゃあちょっとだけ・・」
と答え、コッソリとその場を抜け出してしまった。
「のぞみー!えりかー!うららーっ!ほのかー!」
「メポー!」
「ミポー!」
「たいへんニャー!」
「たいへんドドー」
「ララー」
「一大事だ!」
「なぎさ!?ミップル、メップル!?それに、ハミィ、フェアリートーンに・・ココまで?」
突然現場に現れたなぎさたちを見て、当惑するほのか、のぞみやえりかたちも「どうしたの?」という顔。
「何?どうしたの?」
「レイナ先生!ここにシヨッカーが来てるかも知れないって、ココが」
「えぇー!?それホント!?」
「ああ、気配を感じたんだ。みんな用心した方がいい」
のぞみの声にココが素早く答え、辺りを見回す。
別に変わった雰囲気はない。ドリルや生コン車の音がやかましい普通の工事現場だった。
「ハニャ?セイレーンはどこニャ?」
「え?エレン?・・あっ!エレンがいない!」
「ウソ、ドコ行っちゃったんですかぁ?」
ハミィの言葉で気づいた。エレンの姿が見えない。
のぞみもうららも、えりかも辺りを探してみるがドコにもいなかった。
「あのコったら!ドコに行ったのかしら?シヨッカーが来てるかもしれないのに・・」
(どんな人達かしら?ワタシのファンって、もしかしてサイン下さい!とか、握手して下さい!とか言われちゃったらどぉ〜しよ〜、キャーvヤダーっ♪)
先生たちの心配もよそに、1人百面相中のエレンは、案内の女性作業員と共に、未だ建設途中のホールの中へと歩を進めていた。
所々、鉄骨やコンクリートがむき出しになっている建物内。独特の雰囲気はある。しかし、エレンは妙だな?と思えてきた。
鼻をつくのはセメントやシンナーの臭いだけ、聞こえるのは僅かな隙間から吹き抜ける風と、外の工事の音。
人の気配がしなかったのだ。
エレンは異変を察知していた。
どこまで行っても人の気配がしない。ファンがいると聞いたのに、進めば進むほど、何の声もしないのだ。
「あ、あのぉ・・ドコなんです?ファンの人達」
「あら?知りたい?」
からかうように答えられ、幾分ムカついた。
「知りたい?・・って、当たり前でしょ!?大体ファンがいるからついてきて欲しいって言ったのはお姉さんじゃないですか!」
「フフ・・そう、すっかり信じてたんだぁ。案外素直なコで助かったv」
ここで、はっきりとエレンは身構えた。ゆっくりと問いかける。
「・・・どういう・・コト?」
「おバカさんねぇ・・・」
そう言うが早いか女性は着ていた作業着を脱ぎ捨てた。エレンの目の前にはボンテージに身を包んだ赤髪の怖い顔をしたお姉さんが現れた。
「!アナタ・・まさかワルサーシヨッカー!?」
「あったりぃ♪ポイズニーよ、よろしくネん!」
「ヒドイ!ファンが来てるなんて・・ダマしたのね!?」
「おバカ。騙されるほうが悪いのよ。大体常識で考えなさいな。こんなまだ未完成の危険な建物ん中にパンピーが入れると思って?」
唇を噛むエレン。
悔しかった・・・
まだプリキュアメンバーになって日が浅い彼女に、ファンができたかと淡い期待を抱いた。それが勘違いだと頭から言われてしまったら腹も立つ。
それに、彼女の言う言葉にもっともと思える部分があることも悔しかった。
「絶対に許さないっ!」
エレンはキュアモジューレを構えた。しかし、次の瞬間には己の失策を悔いた。
「あ・・・」
「アハハハ、何の為に仲間から引き離したと思ってんの?」
やられた。フェアリートーンいないジャン!
「ず、ズルぅ〜いッッ」
「さあ、ザケンナーよ!この娘をイジメておやりっ!」
ポイズニーが叫ぶと、蒼黒い妖気が集まった。
「エレンーーっどこぉー!?」
「セイレーンっ!お返事するニャー!」
現場の喧騒に混じって、のぞみやハミィの声が聞こえる。
「いた?うららちゃん、えりかちゃん」
「いないですぅ」
「まぁったくドコ行っちゃったんだか・・」
ほのか、えりか、うららもため息をついた。
その時だった。
「キャアァーーっっ!」
突然周囲の音を切り裂いて、そんな女の子の悲鳴が聞こえた。
「ニャ!?セイレーンの声ニャ!」
ハミィがそう言った瞬間だった。
建設途中の建物内から血相を変えたエレンが飛び出してきた。
それと同時に・・・
「うわあっ!?」
「何だぁ!?」
「化け物!?」
エレンを追って出てきた蒼黒い怪物を見て、作業員達は驚き、逃げ回った。
その内、怪物は付近にあったショベルカーに憑依、あっという間にショベルカーの怪物になった。
「ザーケンナーっ!」
「いいよザケンナー!現場を滅茶苦茶にしておやりっ!」
「セイレーン!」
「エレン!無事!?」
「心配したのよ」
「ハミィ!?レイナ先生!みんな・・」
探していた少女の姿を見つけ、駆け寄るハミィやレイナ達。
「やっぱりシヨッカーだったのね!」
「ゲェーっ!何で私の現場にザケンナーが!?って、彼女はポイズニーくん!」
「ブンビーさんは下がってて、ほのか、みんな行くわよ!」
「セイレーン、変身ニャ!」
『OK!』
「またヘンシンーー!?」
バットと少女たちの声が空に響いた。
「「デュアル・オーロラウェーイブ!!」」
「「プリキュア・メタモルフォーゼ!!」」
「プリキュアの種行くですーっ」
「プリキュア・オープンマイハート!」
「レッツプレイ!プリキュア・モジュレーション!」
それぞれ光に包まれ、輝く美少女戦士が誕生した。
「光の使者、キュアブラック!」
「光の使者、キュアホワイト!」
「大いなる希望の光、キュアドリーム!」
「弾けるレモンの香り、キュアレモネード!」
「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!」
「爪弾くは魂の調べ、キュアビート!」
『やぁーーっ!』
それぞれの衣装に身を包んだアイドル戦士が化け物に向かって突進する。
「ザーケンナぁー!」
「はっ!たぁっ!」
「やっ!てやっ」
巨大な化け物相手にパンチや蹴りで果敢に応戦するプリキュア。
しかし、ここで化け物の前に、ずっと黙っていた彼が立ちはだかった。
「何者だ、うぬら」
ラオウだった。腕組みをして悠然と化け物の前に佇んでいる。
「な、なぁによアンタは関係ない奴は引っ込んでなさい!」
「危ないですよ、どいて下さい!」
ポイズニーとキュアブラックになったなぎさが叫ぶ。しかし、ラオウはそれらを一喝した。
「うぬはこの拳王が現場にて狼藉を働くかぁ!?身のを程を弁(わきまえ)えぬ愚行、死をもって後悔いたせい!」
身体に力を込めると、気迫と共に、化け物を撃った。
「北斗輯連打(ほくとしゅうれんだ)!ぬぅあだだだだだッ!!」
放たれた無数の剛拳。瞬く間に化け物を天空に吹き飛ばした。
「ザッケーンナァァ!!?」
「キャアァー何よコイツぅーーっ!?」
ポイズニーが絶叫を上げる。プリキュアの皆も凄まじい豪腕にポカーン。である。
「い、今ニャ、ビート!」
「う、うん!」
青のダンスドレスを靡かせ、サイドポニーの髪を揺らしながら、キュアビートが飛んだ。
そして手を翳すと、光の中からギターのようなアイテムが現れた。
「ラブギターロッド!行くわよビートソニック!」
エレンのギターから♪音符の矢が現れ、ザケンナーを射抜いた。
「ザ!ケン、ナっ」
「おいで、ラリー!」
「ララー!」
「チェンジ、ソウルロッド!」
ギターにラリーが組み合わさり、ギターがロッドに変わる。
ソウルロッドを手にして、ビートは決めの一撃を放った。
「プリキュア・ハートフルビートロック!」
光の輪がロッドから生まれ、怪物を捉えた。
「3拍子、1、2、3!フィナーレ!」
光の爆発。
ザケンナーはそのまま、光の中に消えた。
「っキィ〜〜ッッ覚えてらっしゃい!」
ポイズニーはそれだけ残すとそこから逃げ去った。
工事現場事務所隣にある救護室。
そこにエレンはいた。隣にはレイナが厳しい表情でエレンを見ている。
「エレン、ブンビーさんがさっきなんて言ってたか、聞いてる?」
「・・ハイ、あの・・工事中の建物の中に入っちゃいけないって・・」
「そうね。なのにどうして中から出てきたの?」
「ワタシの・・ファンの人がいるって聞いたの、だから・・」
「何で先生に言わなかったの?ダメって言われるのわかってたからじゃないの?」
エレンは俯いて唇を噛んだ。
レイナの言うことは正しい・・でも、だけど
「だってあの人が騙すから・・」
「ブンビーさんや先生の言い付けを守ってればあんなコトにならなかったでしょ!?工事だってまた遅れちゃって・・」
「だって・・だってッッ」
駄々っ子のように、だってを繰り返すエレン。
レイナはため息をついた。
「PCA21のルール知ってる?」
「ルール?」
「悪いコは、お仕置き!」
「な、何よ?きゃあぁっ?」
レイナはエレンの身体を引き寄せると、あっという間に膝の上に組み伏せた。
そのまま黒のフリルつきスカートを捲る。
「ちょっとっ、先生何するの!?や、ヤメテよっ、キャアッ」
「じっとしてなさいっ!」
そのまま、可愛いブルーの横ラインが入ったパンティも、降ろして、お尻丸出し状態にっ!
「きゃあぁっヤダぁ!えっちぃーっ」
初めての感覚に悲鳴を上げるエレン。
実はエレンは純粋な人間ではない。
元はハミィと同じ猫の妖精、セイレーンだった。
ところが、セイレーンが齢13を迎えた時、彼女の中でプリキュアの力が覚醒。妖精から人間になった。
妖精の時には飼い猫として、調辺音吉(しらべおときち)という楽器会社「メイジャーランド」の会長の家におり、そこの娘、調辺アフロディテ、婿養子の社長メフィストに、一人娘のアコの家に暮らしていた。
実は彼らもプリキュアや妖精世界の関係者である。
人間になった時、エレンはすべてを打ち明け、出ていこうとしたのだが、アコとそう年の変わらないエレンは音吉にとっては孫娘が増えたようなもので嬉しかったし、メフィストやアフロディテも、実の娘のように扱ってくれた。
音吉は、知り合いの黒川重蔵(くろかわじゅうぞう)にエレンを養子にしてもらう手はずを用意し、彼女は黒川という姓をもらい、セイレーンは黒川エレンとして生まれ変わった。
今では大分人間として、相応の生き方も恥じらいも出てきた。
それなのに・・・
「ヤダヤダヤメテぇ〜〜っっ」
こんな風にお尻だけ裸にされるなんてっ!
お仕置きって何よ!?ナニスルキ!?
頭の中が混乱しているとき、エレンの脳天を凄まじい衝撃が突き抜けた。
パッチイぃーーんっっ!
「きゃあぁっ!??」
ぴしいぃぃっ!!
「ひっっ!??」
ナニコレ!?
いきなり、尻に電流が走ったような鋭い痛みが駆け抜けた。
振り向いてようやく理解する。レイナ先生が自分のお尻を手で叩いたのだ。
オシオキって・・・コレ?
ぴしゃんッッ!!
「きゃっ!あっ!あっ・・ああぁぁあぁッッ」
叫ばずにいられなかった。冗談じゃない。人間はこんな罰を受けてるの?
お尻を焼く灼熱の激痛。
脳天までつんざきエレンはあっという間に涙を両目から溢れさせて泣き喚いた。
ぱんッ!パンッ! ぺんっ!ペンッ! びしっ!ビシッ! ばしっ!バシッ!
「イタイッ!痛いぃっヤメテっ!ヤメテよぉ、レイナ先生ぇっこんなのおかしいよぉっっ」
「何がおかしいの!?悪いコになった時はお尻ぺんぺんなのよ。当たり前のことです。ほら動かないっ!」
ぱぁんっ!パァンッ! ぺぇんっ!ペェンッ! ぴしぃっ!ぱしぃっ! ピシィッ!パシィッ! べちんっ!ベチンッ! ばちんっ!バチンッ! べちぃんっ!ばちぃんっ!
「危険だからブンビーさんも、これだけは守って下さい。って言ったことを破るなんて、裏切りと一緒なのよ?」
「いったあぁいっ!きゃあぁっ!、いたあぁいぃッッぎゃあぁんっあっ、ああんっ!やあぁうっ・・ひいっ、ヒイィっきゃうっ・・やんっやんっ・・やあぁんっ・・うえぇっ・・だって、だってぇ・・あの、オネーサンが・・」
ぴしゃあんっ!
「ひぎゃんっ!」
「言い訳しないのっ!先生にまず聞きにくること、いつも言ってるでしょ!?全然反省してないコはいつまでたったって、ぺんぺんお終いにならないわよ?」
バシィーンっ!
「きゃあぁんっっ」
痛い、痛い、痛い!
たまらなく痛い!
お尻が焼けちゃうような熱さと痛み。
恥も外聞もなく、エレンは涙をとめどもなく迸らせて散々に泣いて、泣いて、涙が枯れるまで泣き喚いた。
「きゃっ!」
「ひうっ」
「うわぁ・・」
「どうしたの?」
医務局内の談話室にて、突然耳を塞いでちちみあがったのぞみ、えりか、うららの3人に、なぎさがファッション誌を見ながら聞いた。
「い、いやぁ・・」
「エレンちゃんの声・・スゴイから・・・相当イタイんだろうなぁ、なんて・・・」
「メッチャ泣いてるし・・・」
「アハハハ。アンタたちいまだに、しょっちゅう叩かれるモンねぇ・・ま、無理ないかぁ、ブンビーさんやケン先生のお兄さんのおかげであんまり大した被害にならなかったみたいだけど・・迷惑かけちゃったもんねぇ、お仕置きは仕方ないか。ほのか、エレンちゃんてはじめてだっけ?お尻ぺんぺんされるの」
「ええ、そーみたい」
ほのかもなぎさの傍らで、なにくわぬ冷静な声で言った。
「っちゃあぁ〜〜・・よりにもよってレイナ先生かぁ〜・・マミヤ先生とかベラ先生はまだ初めての娘には手加減してくれなくもないんだけど・・レイナ先生って最初からガチだからなぁ・・痛そ」
苦笑いしてジュースをなぎさがすすった直後、一際甲高い絶叫が上がった。
「崇山旋風鞭!(すうざんせんぷうべん)」
説明しよう!崇山旋風鞭とは!?
崇山旋風脚(すうざんせんぷうきゃく)伝承者の松風爽雅(まつかぜソウガ)を兄にもつレイナが、生徒を凝らしめる為に編み出せし必殺拳である。
腕に回転力と遠心力を加え、正に柔肌を切り裂く鞭の如き鞭打を思い切り尻に打ちつけるのだ。
これを食らった子は、灼熱の鞭に尻を焦がされるような耐え難い激痛を味わい、涙を溢れさせ、痛みのダンスを飛び回り、お仕置きが終わった後も長きに渡ってヒリヒリジンジンとした鈍痛を味わうという子ども達にはまさに恐怖の必殺拳なのだ。
ぴっしゃあぁぁ〜〜〜〜んっっ!!
「いっきゃあぁ〜〜〜〜っっ・・・いだあぁぁいっ・・いだいぃよぉ・・・うっ・・ううっ・・うわああぁぁぁ〜〜〜〜んっっ」
ぴしっ!ぱしっ! ぺんっ!ぺちぃんっ! ビシッっ!バシッ! ぱちぃ〜んっ!ペチィ〜ンッ!
「このっ!悪いコ!悪いコ!悪いコ!悪いコ!悪いコ!悪いコ!」
ぱんっ!パンッ! ぺんっ!ペンッ! ピシッ!パシッ! ぴしゃっ!ぴしゃんっ!ピシャァンッ!
「悪いコ!悪いコ!悪いコ!悪いコ!こっちのお尻かしら?それともコッチ!?エレンちゃんに悪いことさせるのは?」
ぴしゃんっ!ピシャンッ! ばちぃんっ!べっちぃんっ! ぱちぃ〜んっ!ぺちぃ〜〜んっ!
「いちゃあぁいぃ・・・ふええぇぇ・・・あああぁんっ・・、も、ゆるし・・て・・おしり・・・オシ・・リ・ぃ・・っっっ」
「ほんっと〜に悪いコぉ!メ!メ!メぇ!」
ぺーんっ! ぺーんっ! ぺーーんっ! ぺーーーーんっっっ!!!
「うわあぁぁ〜〜〜んっ・・ぎゃあぁ〜〜〜っっきゃぁぁんっ、ぎゃぴぃ〜〜〜っっ・・うえっ・・うえっうえぇぇえぇぇ〜〜〜〜ん・・・」
・・・・・
どれだけ叩かれたか?
それはわからないが、気がつくと、エレンはレイナ先生の胸に顔をうずめ、真っ赤っかに腫れて一回りくらい大きくなって熱く、熱を持っているお尻を優しく撫でられながら抱っこしてもらっていた。
「反省したかなぁ?エレン?」
「ひくっ・・・ぐしゅっ・・ひぐぅ・・は・・はんしぇっ・・しました・・」
「じゃあ、ゴメンナサイできるわね?」
「ご・・ごめ・・ゴメッ・・うっ・・うえっ・・うわあぁぁぁんっ・・ごめんなさぁ〜いっ・・」
やっと辛くいたぁ〜い時間が終わったとわかると、安心したのか?叩かれたお尻が痛いのか?レイナ先生に抱きついて泣きに泣いた。
「いい?エレンにもしものことがあったらみんな悲しいのよ?アコちゃんだって、響だって奏だって、ハミィだって・・・みんな、みんな。ご家族の方もそうでしょ?」
エレンは無言で何度もうなづいた。
「わかってるわよ。ファンができたって聞いて嬉しかったのよねぇ、まだPCAに入ったばかりだったから、ファンの人に会ってみたかったのよね?」
再びウンウンと無言のうなづき。そんなエレンを見て、レイナは笑い、優しく髪を撫でた。
「でも、危険はやっぱりあるの、シヨッカーもそうだけどね。いい?これからルールや言いつけは守ること、わかった?」
「ひくっ・・ハ・・イ・・ゴメンナサイ・・」
その返事を聞いて、レイナは愛しい生徒をもう一度抱きしめた。
見学はあれから滞りなく終わった。
エレンはまだ泣きべそ顔で、レイナにくっついていたが、たっぷりお仕置きされたことがわかっているPCAの先輩メンバーたちは何も文句は言わなかった。
やがて、工事も作業が終わる。
そして、新たな伝説が打ち立てられた。
ザケンナー出現の後、重機が10台総出でも7日はかかるであろう工事をなんとラオウはたった一人、素手で、その豪腕で片づけから工事の穴あけ作業にいたるまでを片付けてしまい、結果。
1週間の作業を1日で終えてしまったのだ。
そして、午後5時終業時刻。
「ふむ、ここまでだ。行くぞ黒王」
愛馬に跨りラオウが帰路につく、その周りで・・・
『お疲れ様です建王様!』
『お疲れ様です建王様!』
「建王様!本日の日当でございます!!」
ブンビーから日当を受け取り、悠然と引き上げる。その姿を見て、プリキュアメンバーも、エレンやバットを含めて固まっていた。ただ1人、レイナだけが恥ずかしそうに「ラオウ・・」と呟いて、顔を背けた。
そう、ラオウは。太平のこの世に、
建設現場の王、「建王」(けんおう)として君臨したのである。
「ありえねえ・・・」
「ありえない・・・」
一緒になってラオウの後姿を追いながら、バットとなぎさが思わずハモッて言った。
「どうするんだろ?ブンビーさん、結局現場取られちゃったね先生」
「大丈夫のぞみ、ラオウはただ豪腕を振るうだけ。統制や全体の指揮はやっぱりブンビーさんの仕事よ」
「そっか、じゃあ帰ろうか?」
えりかがそういった瞬間、背後からこの男の声がかかった。
「ラオウ・・・その野望も存在も強すぎるゆえ、北斗の伝承者たりえなかった男」
「うわぁっ・・けっ・・ケン!いつの間に?」
「あっ、ケンシロウ先生!」
バットとほのかが振り向いたところには、買い物籠をぶら下げたケンシロウが佇んでいた。
「だが、もし奴が人としての道を踏み誤るときには・・・弟として、そして北斗の伝承者として、俺がその歩みを止めねばならぬだろう」
決意に満ちて話すケンシロウに、バットだけが心の中で激しく突っ込んだ。
(だったら今すぐ止めろよ・・・。)
21世紀、どこまでも平和な世の中は、可愛いアイドル戦士と、中途半端な悪党と、建設現場に覇業を唱える、建王が存在していた。
拳 王 が
建 設 現 場 で
建 王 に
つ づ く